それもまた一つの選択
「親の顔に泥を塗る気?」

家に帰るとすごい剣幕のお母様から説教。
リビングは険悪なムードでお手伝いさん達も端の方からこちらを見つめていた。

「…お互い好きな人がいるのにどうして結婚させようとするんですか」

初めて、そういう事を言った。
お母様の顔が歪む。

「遥、本当に家に閉じ込めるわよ。今すぐ彼と別れなさい」

「…じゃあ、私が家を出ます。高校も辞めます」

そう言って立ち上がろうとすると

「やれるものならやってみなさい。その彼があなたを誘拐したと言いますから」

…そんな事、出来るわけがない。
何も悪くないトキさんに迷惑なんてかけられない。

「いい加減にしなさい」

そこに入ってきたのはおばあ様。

「紀久子さんも気が早すぎるんじゃないかしら」

おばあ様がゆっくりと椅子に座った。

「元々、お見合いも年明けじゃなかったかしら?
どうしてそんな急にお話を進めたの?」

「遥がフラフラしているからです。
毎週、日曜日には出かけていますし。
いい加減、今井の名を背負っている事の自覚をしてもらいたい」

お母様のその言葉に吐き気がする。

「まだ高校2年生でしょ?
遥は高校を卒業したらどうしたいの?
大学は?」

おばあ様の言葉にも絶望する。
…受験勉強なんて全くしていない。
将来なんて全く見えない状態で、どうしたらいいのかもわからない。

「…彼の仕事を手伝います」

咄嗟に出た、言葉がこれ。
トキさんのしている事なんてほぼ、理解していない。

「遥にそんな事、出来るのかしら?」

お母様、トキさんのしている事も調べている。

「…これから教えてもらう」

「そんな事、必要ありません。
結婚相手はこちらで探しますから」

もう、話にならない。
私は椅子から立ち上がって自分の部屋に行った。



部屋のドアを閉じて大きくため息をつく。
本当にどうにかして欲しい。
トキさんと一緒にいたいのに。
私の事、わかってくれるの、トキさんしかいないのに。
私からトキさんを奪ったら。
全ての事が音を立てて崩れそう。

両手で顔を覆った。
トキさんに会いたい。
今日、会いたかったな…。

トントン、とドアをノックされた。

「はい」

入ってきたのはお手伝い兼運転手の城田さん。

「お嬢様、橋本拓磨様からお電話が入っておりますがいかがいたしましょう」

「あ、出ます」

きっと、何かあったに違いない。
もし私の発言で大変なことになっていたらどうしよう。
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