それもまた一つの選択
「あははははははははは!!」

リビングに高橋さんの笑い声が響く。
トキさんは横になりながらムッとした表情を浮かべ

「高橋、笑いすぎ!!」

声を振り絞って叫んだ。
もう、これに関しては本当に私が悪くて

「トキさん、ごめんなさい」

と何度も謝る。

「遥、いいから、謝らなくて」

「よーちゃん、もっとしてやっても良かったかも!!」

高橋さんが更に茶化すから余計に不機嫌になるトキさん。



ええ。
私。
立ち上がる時にトキさんの大切な部分を膝で蹴り上げた感じになってしまって…。
本当にごめんなさい。

「こういう事は何度かあったけど…ここまでは初めてかも」

トキさんは額に自分の手を当てた。
私はその手に自分の手を重ねる。
そうするとトキさんはいつもの…私の大好きな笑みを見せてくれる。

「大丈夫だよ、ただ…今日はごめん、もう動けない」

「あははは!!よーちゃんは俺が送って行ってあげるから心配するな!!」

高橋さん、こういうピンチの時に絶対にいてくれる。
だからトキさんも私も信頼出来る。

「そうだな…」

トキさんは辛そうに天井を見つめながら

「遥、万が一何かあれば。
今日、お前が俺にした事は防御になるかもしれん。
頭の片隅に覚えてくれていたら」

その瞳に一瞬、不安が見えた。



その予感が現実になるのはそう遠くない未来の事だった。
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