それもまた一つの選択
季節は夏。
トキさんは大学の前期試験と仕事の板挟みで中々私の両親と会うチャンスを逃していた。

お母様がダメならお父様にお願いしてトキさんに会って貰おう。
そう考えていた矢先だった。

またお母様は懲りずに私にお見合いを持ってきた。

今度は41歳。
財閥系の御曹司。
…なんだろ。
嫌な予感しかしない。

その日は朝から雨がずっと降っていた。
梅雨明けの発表があったのに。
また少し季節が戻ったかのような雨。

とある料亭の一室。

いい加減、こんなお店も飽きた。
トキさんとカフェ行ってパンケーキ食べたい。
窓の外は打ち付けるような雨が降り続いている。

お母様達が退室してその人と二人になった。
無言。
…普通、こんなに年齢が離れていたら男の人が会話をリードしてくれそうなのに。
絶対に無理だわ。

ずっと俯いていたけど一瞬顔を上げた時、その男はニヤニヤとこちらを見つめていた。

「へえ、可愛い顔をしてるね」

最初の一言がそれ。
気持ち悪い。

「まだまだ子供、って感じだけど…色々と聞いているよ、お母さんから」

何を?
と思った瞬間!

いきなり押し倒された。
いつの間にか私の隣に来て、胸を触られる。

「へえ」

その舌舐めずりやめて〜!

「彼氏に色々と教育されたからかな」

違う!この胸は天然だ!
ってこんな時に私、こんな事を思ってはいけない!
両手を頭の上で完全に押さえられた。

「お母さんが言ってたよ。
既成事実を作ってしまえばこちらのものってね」

お母様!なんて事を…。

その気持ち悪い唇が私に近づいて来た時、トキさんの顔が思い浮かんだ。
手は自由がない。
でも足は?
動く!
多少遠慮しているのか、そこは押さえつけられていなかった。

そう、あの時のように…。



大絶叫が料亭中に響いたに違いない。
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