それもまた一つの選択
そこからどうにか抜け出して、大雨の中、傘も差さずに歩く。

トキさん…。

早くトキさんに会わないと。
助けて、トキさん。
あの変なの、しばらくは動けないと思うから追いかけて来ないと思うけど。
助けて、トキさん。

胸を触られた感触が残っている。
思わず身震いをして、目から沢山の涙が溢れた。

「お嬢様!」

後ろから声がして振り返ると今日は休みのはず。
城田さんがいつもの送迎用の車ではなく自分の車から手を振っていた。
そして慌てて車から降りて、私を抱きしめてくれた。

「大丈夫ですか?さ、早く!」

後部座席に乗せられてようやく自分がガタガタと震えている事に気がついた。

「奥様の様子がおかしかったので、後を付けさせて頂きました。
今までならお見合いの時はいつも私が送迎していたのに今日に限って奥様の運転手で」

そう言われてみればそうだった。
もう、お母様は狂ってるとしか言いようがない。
城田さんは私寄りの人だからそういう事が起これば絶対に私の味方をするのは目に見えていた。

「藤野様のところに向かいますね」

城田さんの申し出に私は頷くと同時に号泣した。
とにかく早く、トキさんに会わないと。
会ったら全てを打ち明けよう。
きっと、酷く叱られると思うけど。
私の事も嫌いになっちゃうかもしれないけど。

早くトキさんに会いたい…
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