それもまた一つの選択
「ふーん…そんな手を使うか」

しばらくの沈黙の後、俺はそれしか言えなかった。
自分の娘をそこまでしてどこぞの御曹司とやらに嫁がせたい?
俺は遥を大切にして、親の注文通り門限も守り続けている。
本音は俺、遥とどこかに泊まりで出掛けて夜空に輝く星を見ていたい。
ずっと…我慢しているんだ。

そっちがその気なら。
俺も覚悟を決めるしかないな。
遥のお父さんには…悪いと思うけど。
本当はきちんと筋を通したかった。

「遥、今から一緒にお風呂、入ろ」

遥が一瞬、ビクつく。

「…ダメ、トキさん。私、汚れてる」

俺はふっと息を吐いて言った。

「俺が綺麗に洗い流してやる。
アイツにされたのは胸を触られただけだろ?
大丈夫、そんなの、俺が消してやる」

遥、そんなに泣くなよ。
そんなに泣いたら俺が泣きたくなる。
お前を守りきれなかった俺の、判断ミスだ。

「トキさん!」

ようやく、俺に向かって手を伸ばした。
遥の《抱っこして》の合図。
…あーあ。
顔、鼻水だらけ。
色気も何もない。

抱っこする前に顔面を思いっきり拭いてやった。
その後、俺を見て無邪気な笑顔を向けるその表情。

そういう飾り気のないところが俺、好きなんだ。
本当に超一流のお嬢様なのに。
子供みたいなところが堪らなく愛しい。

抱っこもお姫様抱っこじゃなくて、本当に子供を抱っこする時みたいに。
遥、俺はお前の事が好きで好きで堪らない。

だから、今回ばかりは。
本当に許せない。
こんなに遥の心を傷つけたお前のお母さんを。
絶望の淵に立たせてやる。
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