それもまた一つの選択
この夏は毎週、遊びに行った。
プールも海も行った。
ただ、花火大会やお祭りは行けなかったけど、二人で遊び倒していた。

「遥、宿題は終わったの?」

「まだ」

あと2週間で夏休みも終わる、という頃。
遥は学校の宿題放置を白状して俺と一緒にする事になった。
俺がすれば一晩で終わるけど、遥と一緒の事をしたいからわかっていてもわざと答えを出さずにその過程を導き出したり。

「トキさん、お腹空いた」

「えっ、さっき食べたところだけど?」

「お腹空いたー」

毎日、こんな事を言う。
朝、遥を迎えに行って、9時くらいに軽く食事をして、それから宿題をして11時にまたお腹空いたって言う。
俺、全然空かないけど。

「朝、食べてきたの?」

「もちろん、7時に」

成長期か。

「…お腹空いた」

遥はシャーペンをテーブルに置くとパタリ、と机に伏した。
半袖から見える腕。
少しだけ日焼けした肌が今年、遊び倒した証拠だと思うと今までにない進展だと思う。
去年は全く出来なかった。
そんな余裕がなかった。
今年は遥のお父さんに認めて貰っているというのが大きいのかもしれない。

「はい、よーちゃん」

さっきからキッチンにいた高橋がおにぎりを持って来てくれた。

「高橋さん、ありがとう!!」

嬉しそうに受け取る遥。
早速食べていた。

「なあ、藤野」

高橋がキッチンに向かう途中で振り返るので俺は席を立って高橋の元へ歩く。

「よーちゃん、つわりじゃないのか?」

「えっ」

一番心当たりのある俺が全然自覚してないのを見て高橋はヤレヤレ、といった表情で話を続けた。

「今から妊娠検査薬でも買ってきたら?」

「…後で一緒に付いてきて」

高橋は声を殺して笑っている。

「お前、今頃ビビってるのか?
藤野、お前もちょっとは人らしいところがあるんだな。
今から一緒に行ってやるから」

高橋は遥にちょっと二人で買い物に行ってくるからゆっくり食べろ、と言って俺を連れて外に出た。
< 65 / 119 >

この作品をシェア

pagetop