それもまた一つの選択
外に出た瞬間、汗が吹き出しそうなくらい、今日は暑かった。
こんな日にプール行ったら気持ちいいだろうな、なんて。

「いよいよ、お前も父親になるんだな」

なんて歩きながら高橋に言われて少しだけ胸が…ギュっと締め付けられた。

「そうだな」

遥が襲われそうになったあの日。
自分の頭の中でもう一人の自分が叫んでいた。

『もしこれで遥が妊娠したら俺の人生は自分だけの人生じゃなくなる』

今なら、まだ引き返せる!って
誰かが叫んだ気がした。
でも、それをしなかった。
周りはまだ、遊び倒している年頃。
でもこのチャンスを逃がしたくない。
遥となら、死ぬまで一緒にいたい。
子供が産まれたらきっと半端なく忙しくなるけど。
それ以上に俺は幸せになる、絶対に。

薬局で男二人、妊娠検査薬を買うのは…勇気がいる。
他のものも買ったけど。
店員さんの、異様なものを見る目をきっと一生、忘れない…。
俺達のどちらかが妊娠しているような、目。
いや、妊娠しないから、どちらも。



「ただいま」

帰って玄関を入りながら遥に言っても返事がない。
慌ててリビングに入ると遥は机の上で伏して寝ていた。

「ちょっと寝かせてくる」

高橋にそう言うと俺は遥を抱き上げた。
出来るだけ揺らさずに寝室まで歩いていき、そっとベッドの上に遥を寝かせた。
…つもりだったが。
ベッドに置いた瞬間、遥の目がパチッと開いた。

「トキさん、おかえりなさい」

半分寝ぼけながら遥は俺に抱きつく。

「ただいま」

さて、どう切り出すかな。
そっと遥の髪の毛を梳くように撫でた。

「遥、最後に生理来たの、いつ?」

俺の記憶が正しければ7月初旬だ。

「え、どうして?」

おい、自分の体の事、わかっとけよ。

「いつだった?」

遥に自分で気が付いてもらわないと。

「うーん…7月だった気がする」

「で、今は?」

「8月14日」

「遅れてない?」

遥はようやく、あっ!という顔をして俺をじっと見つめた。

「うん、来てない」

「検査薬買ってきたから一度、してみて」

遥は慌てて体を起こす。

「トキさん、どうしよう」

「とりあえず、してみて。話はそれからだ」
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