それもまた一つの選択
「今井遥です」

その日、高橋に待ち伏せされて俺とその子の間に入って駅まで歩く羽目になった。

遥、と書いて『ヨウ』

「男の子みたいな名前だね」

高橋が言うと遥は

「両親は男の子が良かったみたいですけど…残念ながら」

ちなみに遥が男の子だったら漢字は『要』になったらしい。
兄弟姉妹はいない。

…それを聞いて何だか嫌な予感がした。

「で、よーちゃん」

いきなりチャン付けの高橋。
何考えてるの?

「藤野ってよーちゃんの彼氏?」

その瞬間、遥の顔は真っ赤になる。

「え~…え~…」

「いやあ、てっきり毎日帰ってるから付き合っているのかと」

俺を見ながら言うなよ、高橋。

「え~…」

遥は俯いてしまった。

高橋、追いつめるなよ。

「藤野はきっとよーちゃんの事、好きだよ」

……たーかーはーしー!!!

「ええっ!?」

遥は俺をマジマジと見つめる。

「トキさん、本当ですか?」

一瞬、俺の眉間にしわが寄った。

なんて言えば良い?

「私、図書室で寝ていたトキさんを初めて見た時、ずっとこの人の隣で座っていたいなあって思ったんです」

目を輝かせて言わないでくれー!!

「本を何冊も積んで。
その横で机に伏して寝ているトキさんが…幸せそうで」

俺と高橋は目を合わせた。

俺が幸せそう?

そんな事、今まで誰にも言われたことがなかったのに。

「二人とも、お互い気になるんだろ?付き合えよ!」

高橋は俺と遥の肩をがっしりと掴んでワハハ!!と笑っていた。



そう、これが俺たちの長い付き合いの始まり。
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