それもまた一つの選択
「色々とありがとうございました」

トキさんと私はここにいらっしゃる皆さんに頭を下げた。

「お土産、買って来てね〜!」

土建屋さんは嬉しそうにトキさんにそう言った。

「うん。
また改めてご挨拶に伺います」

土建屋さんのお父さんにもトキさんは頭を下げた。

「また、お互い何かある時はよろしくお願いします」

土建屋お父さんはトキさんに手を差し出すと、トキさんもまた、握手に応じた。

さっき、この二人は名刺交換していた。
こういう所もトキさんは抜け目ない。

「じゃあ、送って行くわ」

わざわざ、ここまで高橋さんは車でやって来てくれて土建屋さんと共謀(?)して私達をあのハンモックのような網で受け止めてくれた。

今から更に私達を送ってくれるらしい。

「まあ、二人でゆっくり遊んでこいよ」

「うん、ありがとう」

今日から1週間、トキさんと二人で旅行に行く事にした。
旅行から戻ってきたら私は退学の手続きをしないといけない。
トキさんもまた、仕事で忙しくなる。

「あのさ」

車を運転しながら高橋さんは口を開いた。

「近々、俺、実家に帰ろうと思う」

……え。

「「なんでー!?」」

私とトキさんが叫んだのはほぼ同時。

「だって二人、近々一緒に住むでしょ?
そんな所に俺がいるのはどうかと思うけどな」

「でも、家は行き来出来るとはいえ、基本は別々だろ?」

少しだけ、トキさんの声が焦っているように思えた。

「うん、でも。
もう二人は誰にも邪魔されないと思うし、それなら俺の役目は終わったかなあって」

えー…。
どうしてそんな事、言うんだろ、高橋さん。

「えー…」

自然と声が出て、ポロポロと涙が溢れた。

「よ…遥?」

トキさんはますます焦る。

「まあ、今すぐじゃないし。
二人が帰って来るまではちゃんと逃げずにいるから」

高橋さんは苦笑いをしていた。

「こういう時も、いつか必ず来るんだ。
俺も将来の事、そろそろ真剣に考えてないとな」

高校1年からずっとトキさんと共に一緒にいたような感じの高橋さん。
ずっと…私達を支えてくれていたから。

いざ、こういう事を言われると想像以上にショックで。
辛い。

でも、高橋さんは高橋さんの人生がある。

それを考えると複雑な気持ちになった。
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