それもまた一つの選択
高橋さんが車で送ってくれたのは。
トキさんの実家だった。

「今日はここに泊まろうと思う、狭いけど」

報告をしておきたい、とトキさんは言った。
トキさんの妹さん、弟さんとは時々会うけれど。
お母様は初めてだった。

「ただいま」

アパートの一室。
入った瞬間に妹の優貴ちゃん(といっても私より1歳年上だけど)弟の浩貴くんがこちらを見て目を丸くしていた。

「帰ってくるの、お兄ちゃんだけじゃ…なかったんだ」

優貴ちゃんはそっと私達の元へ駆け寄ってくる。

「…お兄ちゃん」

何か言いたげに優貴ちゃんはトキさんを見つめた。

「母さん、いてる?」

「うん」

「ちょっと呼んでくれない?」

優貴さんは頷くと慌てて奥の部屋にいるお母様を呼んできた。

「あら」

トキさんのお母様は若かった。
私のお母さまよりもうんと。

「夜分に失礼いたします。私、今井 遥と申します」

深々と頭を下げた。

「こちらこそ、都貴がお世話になっています。でも…都貴、帰ってくるのはあなた一人じゃなかったの?」

お母様は奥の部屋で布団を敷いている最中だった。
時刻は夜9時。

「母さんに話があるんだ」

お母様の視線が私の下腹部に向いた。
きっと、気が付いている。

「…上がって、本当に狭いけど」

トキさんのお母様は悲痛な表情を浮かべた。
それを察した優貴ちゃんと浩貴君は黙って俯いていた。

トキさんも黙って靴を脱ぐと私の方を振り返って

「遥、上がって」

と言った。



嫌な沈黙が流れる。
優貴ちゃんも浩貴君もこちらとお母様の間

「で、二人揃ってどうしたの?」

お母様の声のトーンも低い。

「俺達、結婚しようと思います」

トキさんが真っ直ぐ、お母様を見つめた。

「…今井さんってまだ高校生じゃなかった?」

「きっと高校は辞める事になる」

トキさんがそう言った瞬間、お母様の平手打ちがトキさんの頬に入った。

「…遥は妊娠してる。まだ心拍が確認されたわけじゃないけれど」

叩かれてもトキさんはそのまま続けた。

「俺達が一緒になるには、これしか方法がなかったんだ。
…遥は強制的にお見合いさせられるし、そのお見合い相手から襲われそうになるし」

「そんな事、言い訳にしかならない!!」

お母様はテーブルの上を叩く。

「都貴、あなただけはお父さんみたいになって欲しくなかった。
私は…高校2年で妊娠して中退したの。
お父さんと結婚したけれど、もう…本当に辛い事ばかりで」

お母様は泣きながらトキさんを何度も叩く。
それを甘んじて受けているトキさん。

「結婚を反対しているんじゃないの。あと半年、どうして我慢できなかったの?
卒業してからでも良かったじゃない!!そんな事を判断できない都貴じゃないでしょ?」

もう一度、お母様の手が上がった時、私はトキさんの前に出て、トキさんを庇うように抱きしめた。
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