それもまた一つの選択
遥の家には大きな食堂みたいな部屋があった。

「お口に合うかどうかわかりませんが、どうぞ召し上がって」

遥のお祖母さんは上品そうな笑みを浮かべてそう言ってくれた。

「ありがとうございます、いただきます」

目の前で広がっている食事は…。
俺の家じゃ絶対に出ないような料理。

「いつもこんな感じ?」

こっそりと隣の遥に聞くと

「うん。今日は皆いてるけど、いつもはここで一人。つまらないでしょ?
だから私はトキさんや高橋さんと一緒にご飯食べる方が楽しいし美味しい」

何一つ不自由がない、というのは金銭的なごく一部の面であって、本当は何をするにしても自由がない。
閉鎖的な世界で遥は生きていた。

「遥ちゃん、高校に入ってからずっと楽しそうだったから一度、どんな方か会ってみたかったのよね」

なんてお祖母さんが言うと、その隣の…今井商事の会長であるお祖父さんが

「あとでじっくりと話を聞きたいね」

なんて言う。

ああ、俺は今日。
今井商事の会長と社長を相手にせねばならんのか。
結婚するというのは大変だな。

「紀久子さん」

そのお祖父さんが憮然としているお母さんに一言。

「遥が選んだお相手だ。誠実で謙虚な方に決まっている。
それに…若いながらも会社を経営している。業績も素晴らしい。
何より、遥が彼を心の底から信頼している。
これ以上、何を望むんだい?」

「…それは家柄など」

俺を目の前に、よくもこういう事を平気で言うよな。

「家柄?
誰かの指図で遥を襲うなんてとんでもない行為をする犯罪者みたいな輩はこの家の親戚になって欲しくない」

思わず、お祖父さんの顔を見つめると。
優しい眼差しで俺を見つめていた。
お母さんはムッとして表情で黙り込む。

「俺はこの家の名前が途絶えてしまったとしてもそれは仕方がないと思っている。
それはこの今井に対する世の中の人の恨みからかもしれない。
でも、本当に血族、という事にこだわるなら。
遥のお腹にいる子で十分じゃないか?
後は無事に生まれてくれることを祈っている」

「…ありがとうございます、おじい様」

遥が両手で顔を覆った。
< 82 / 119 >

この作品をシェア

pagetop