それもまた一つの選択
まだ夏休みなので学校は閑散としていた。
クラブ活動をしている生徒がちらほら、いるだけで。
職員室の隣にある、会議室に案内された。
お父様が来る、というだけで全ての教員と一部の職員が集まっていた。
緊張と気持ち悪さで吐きそう。
お父様とトキさんは淡々としていた。
冷静に、視線を真っ直ぐ向けているのを見てこの人たちの神経は相当図太い、と思った。
案外…この二人は似ているのかもしれない。
今更そういう事に気が付く。
「本日は御多忙の中、お時間を頂きましてありがとうございます」
お父様がそう挨拶をするのと同時に私もトキさんも立って頭を下げた。
「いえ、お話というのはどういう事でしょう?」
この学校法人の理事長が鋭い目を私達に向けていた。
もう、察していらっしゃる。
「娘、遥が妊娠してしまいました。
あと半年で卒業ですが、他の生徒たちの手前、このままの状態は良くありません」
その場の空気が凍りついた。
うん、そうだわ。
まさかの私。
この高校、男女交際が結構盛んであちこちでカップルいてるけれど。
だからこそ、性教育も保健体育で結構進めていたし。
「相手は…藤野君、ですね」
高校を卒業する時、トキさんは学業でも優秀でその合間にしている仕事でも結果を出して周りから一目置かれていたのに。
「…藤野君に限ってそういう事はないと思っていたんですけど」
残念そうに校長は呟いた。
全てを一瞬にして失う、という事はこういう事を言うのかもしれない。
「これは私にも責任があります。
娘に付き合っている人がいながらお見合いを何度もさせたのです」
…実際、お父様はその件に関しては関わっていない。
でも、お母様のした事を表に出すわけにもいかない。
「それに反発して二人が行動に出てしまいました。
申し訳ございません」
静まり返る場。
長い沈黙のまま、誰もそれ以上、話をしようとしない。
だから。
「本当に申し訳ございませんでした。
でも、今回妊娠したこととあと半年の高校生活。
どちらが大切かといえば…私にとっては今回の妊娠です」
ああ、段々…気持ち悪くなってきた。
でも、ちゃんと伝えなきゃ。
「高校生活、トキさんと最初にいた1年は何とか楽しく過ごしました。
彼が卒業してから、周りとはそれなりに接しましたが。
本当の友達って…出来ませんでした。
もちろん、仲良くしてくれる人も少なからずいます。
でも…」
一瞬、いつも図書館にいる司書の竹中先生の顔が目に入った。
心配そうに私を見つめている。
それが辛くて。
俯いた。
「仲良くしてくれる人には他に親友と呼べる人がいます。
だから私は一人なんです」
ずーっと、誰にも言わなかった事。
誰にも、言えないこんな事。
「きっと、このまま高校にいて普通に卒業したとしても…私にとっては何の価値もない。
今井、という名前が私の…生活をそうしたんです。だから、一刻も早く…藤野に変わりたい」
お父様の前でこんな事を言うのは酷だと思う。
でも、そう言うしかないの。
クラブ活動をしている生徒がちらほら、いるだけで。
職員室の隣にある、会議室に案内された。
お父様が来る、というだけで全ての教員と一部の職員が集まっていた。
緊張と気持ち悪さで吐きそう。
お父様とトキさんは淡々としていた。
冷静に、視線を真っ直ぐ向けているのを見てこの人たちの神経は相当図太い、と思った。
案外…この二人は似ているのかもしれない。
今更そういう事に気が付く。
「本日は御多忙の中、お時間を頂きましてありがとうございます」
お父様がそう挨拶をするのと同時に私もトキさんも立って頭を下げた。
「いえ、お話というのはどういう事でしょう?」
この学校法人の理事長が鋭い目を私達に向けていた。
もう、察していらっしゃる。
「娘、遥が妊娠してしまいました。
あと半年で卒業ですが、他の生徒たちの手前、このままの状態は良くありません」
その場の空気が凍りついた。
うん、そうだわ。
まさかの私。
この高校、男女交際が結構盛んであちこちでカップルいてるけれど。
だからこそ、性教育も保健体育で結構進めていたし。
「相手は…藤野君、ですね」
高校を卒業する時、トキさんは学業でも優秀でその合間にしている仕事でも結果を出して周りから一目置かれていたのに。
「…藤野君に限ってそういう事はないと思っていたんですけど」
残念そうに校長は呟いた。
全てを一瞬にして失う、という事はこういう事を言うのかもしれない。
「これは私にも責任があります。
娘に付き合っている人がいながらお見合いを何度もさせたのです」
…実際、お父様はその件に関しては関わっていない。
でも、お母様のした事を表に出すわけにもいかない。
「それに反発して二人が行動に出てしまいました。
申し訳ございません」
静まり返る場。
長い沈黙のまま、誰もそれ以上、話をしようとしない。
だから。
「本当に申し訳ございませんでした。
でも、今回妊娠したこととあと半年の高校生活。
どちらが大切かといえば…私にとっては今回の妊娠です」
ああ、段々…気持ち悪くなってきた。
でも、ちゃんと伝えなきゃ。
「高校生活、トキさんと最初にいた1年は何とか楽しく過ごしました。
彼が卒業してから、周りとはそれなりに接しましたが。
本当の友達って…出来ませんでした。
もちろん、仲良くしてくれる人も少なからずいます。
でも…」
一瞬、いつも図書館にいる司書の竹中先生の顔が目に入った。
心配そうに私を見つめている。
それが辛くて。
俯いた。
「仲良くしてくれる人には他に親友と呼べる人がいます。
だから私は一人なんです」
ずーっと、誰にも言わなかった事。
誰にも、言えないこんな事。
「きっと、このまま高校にいて普通に卒業したとしても…私にとっては何の価値もない。
今井、という名前が私の…生活をそうしたんです。だから、一刻も早く…藤野に変わりたい」
お父様の前でこんな事を言うのは酷だと思う。
でも、そう言うしかないの。