それもまた一つの選択
遥は家に帰ると制服と洋服を段ボール箱に詰めた。
そのクローゼットの中には本当に服がなくて全てのシーズンの服がそこに入っていた。

段ボール2個もあれば十分だった。

「本当に少ないな」

多分、俺の方が多い。

「うん、替えが3着くらいあればどうにかなるから」

あ、と言って遥は嬉しそうに振り返る。

「トキさんに買ってもらった服があるから、向こうではちょっと多くなるね」

…それでもたかが知れている。

「アルバムは?」

本棚に入っているアルバム類を指差すと

「良い思い出がないから置いていく」

ため息をつきながら遥は目を逸らした。
それが遥にとって大きな闇なのだろう。

「そう」

俺はそのうちの1冊をそっと手に取った。
幼稚園のアルバム。

パラパラと捲ると、いつもつまらなさそうにしている幼い遥がそこにいた。

「幼稚園も嫌いだった。みんな、無視するの」

寂しげな横顔を見せる遥に胸が痛くなる。

「小学校も中学校も、ずっとそう」

それぞれのアルバムを指差しながら遥は唇を噛みしめる。

「高校は少し違った」

そんな切ない笑みを浮かべないで。

「トキさんに会えたから。
私の事を色眼鏡で見ないトキさんや高橋さんには本当に感謝しています」

「同じ学年は?」

俺、そこが知りたい。
結局、遥は同級生に対してはどう思っているのか。

「柏原君や平野さんはよくしてくれてるよ。
でも、二人には他にも友達がいるし。
私はその中に入っていけない。
一時期よりはマシにはなっているけれど、やっぱり駄目かな」

そっか…。

「だから辞めても良かったの、学校。
でも、トキさんやお父様が手を尽くしてくださったから。
そこはきちんと全うするわ」

そう言ってほほ笑む。
そういう所が、遥のお嬢様ぶりを発揮するところだ。
嫌な事があっても、逃げない。
淡々と向き合ってこなす。
優貴ならあっさりと逃げるな、同じ状況なら。
それがいわゆる育ちの違いなのかもしれない。

その時、ドアをノックする音が聞こえた。
二人ともそちらに視線を送る。

「遥ちゃん」

遥のお祖母さんが部屋に入ってきた。
俺が深く頭を下げるとお祖母さんも上品なお辞儀をして

「もう、準備は出来たの?」

その質問に遥は頷く。

「二人とも、まだ時間があるならばお茶でもどう?
遥ちゃんの好きなケーキも買ってあるの。
ここでお祖母ちゃんとお茶するのもしばらくないだろうし」

また胸が痛んだ。
遥は母親とはそれほど良い関係ではなかったけれど、祖父母に関してはそれほど悪いイメージがない。
遥は俺にそんなに文句を言っていない、ということだ。

「はい、今すぐ」

お祖母さんは嬉しそうに頷いて部屋を出て行った。
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