それもまた一つの選択
「何だか寂しくなるわね」

この家の馬鹿でかい食堂というべき、ダイニングにお祖母さんと遥と俺、3人で優雅にティータイム。

最初に来た時はこの大きさにびっくりしたけど、二度目は驚きもなくなった。

「また時々は来てね。
顔を見ないと寂しいから」

そんな言葉を聞くと、本当に遥をこのまま連れて帰って良いのか迷う。
まだまだ準備が足りなかったんじゃないかと。

「お祖母様、もちろんです」

遥は微笑んで頷く。

「都貴さん、どうか遥ちゃんの事、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

深々と頭を下げて顔を上げると。
ちょうど遥のお母さんが入ってきた。
未だに憮然としている。

「…結婚式」

目が死んでいるお母さんがテーブルの一点を見つめて呟いた。

「結婚式はどうするの?」

そこは全く。
決めていない。

「…したくない」

そんな事を言ったのは遥。

「考えただけで疲れる。
もう、私たちの事を構わないで」

鋭い視線をお母さんに投げかけた。
全く動じないお母さんも凄い精神だと思うが。

「家族だけで式だけはしておいた方が良い」

…?

あれ、お母さんって反対してなかったっけ?

意外な言葉に俺は思わずお母さんを見つめた。
それに気が付いて咳払いをすると

「披露宴とかはきっと気を使うから。
お互いの家族だけで、式だけはしたら?
お腹が大きくなる前にね」

そう言うとお母さんはこの辺りで有名な神社のパンフレットを出した。

「ほら、ここなら。式だけでいいから。
都貴さん、来月下旬位に一度予定を立てて貰えないかしら?
こちらはあなた達の都合に合わせるから」

今日、初めて目が合ったお母さん。
ようやく、雪解けが始まったようだった。

「わかりました」

「トキさん!!」

俺の了承の声に遥が悲鳴に近い声を上げる。

「遥。
お前は今井家の一人娘なんだ。
それくらいは…見せてあげなよ。
それに、結婚するのに式を挙げてないとか世間にわかると怪しまれるよ?」

遥は渋々頷いていた。
俺も別に良いかな、とは思っていたけれど。

お祖母さんの表情とかお母さんの心変わりを見ていると。
ここは筋を通した方が良いと思った。

それに。
ない噂まで立てられるかもしれない、外野に。

となると、早い目の方が良いな。
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