恋するオフィスの禁止事項 〜エピソード・ゼロ〜
──それから。
水野は一週間で報告や記録等の雑務についてはすぐできるようになった。単純作業は教えればすぐに覚える。
要領が特別良いわけではないが、教わったことをすぐに自分なりにまとめる癖がついており、マニュアルを見ながら正確に進めていく。
こちらが時間を割いて教えたことを100%吸収しようとするから、忙しくても彼女に時間を割くことを微塵も煩わしいと感じなかった。
「・・・あの、先輩。すみません、教えていただいてもいいですか?」
「うん、どうした?」
「ここの部分なんですが・・・前に教えていただいたとおりに記入してみたんですけど、乖離が出てしまいました。でも、どこが間違ってるか分からなくて・・・」
加えて、水野はこんな風によく引っかかる。
今まで教えたものとは少し違っているものがあると、分かりやすく頭を悩ませるのだ。
何度もマニュアルを見直して挑戦して、上手くいかずに俺に助けを求めてくる。
「ああ、それはちょっとイレギュラーなんだよ。この場合見る数字はこっちじゃなくて、コッチな。基準値を変えると上手くいく」
「・・・ホントだ!出来ました!ありがとうございます!どうしてここは基準値を変えるんですか?」
「それはここの数字を見れば分かりやすい。ほら────」
理解するたびに笑顔になり、謎が解けると目をキラキラさせる。
「なるほど・・・!すごいです先輩!分かりやすいです!ありがとうございます!」
「おう、じゃあやってみて」
「はい!」
教える側からすれば、こういうのはすごく遣り甲斐があった。
悩んだらそのままにせず俺を頼ってくれて、そしてひとつずつ解決するたびにご機嫌になって進めていく。
彼女が次に何に躓くか、何を俺に聞いてくれるのか、楽しみだった。