恋するオフィスの禁止事項 〜エピソード・ゼロ〜
まずは入り口近くにいた課長が助け船を出した。
「もしかしたら、そちらも間違って午後って言っちゃったのかもよ?どちらにしても、揉めていても仕方ないから、今から水野さんに準備に行ってもらいましょう」
うちの課長は女性だから、すぐにこの不穏な空気を感じ取ってのことだろう。言った言わないの問題はどうしようもない。
高橋から聞いた話じゃ、この三人は水野の陰口を言っている中心人物のようだから、おそらく水野に嘘の時間を伝えた可能性だってある。どうせそうなんだろう。虫酸が走る。
「水野さん、大丈夫?行ける?」
課長が聞くと、水野は「はい」と返事をして立ち上がった。
「課長、俺も行ってきます」
「ええ。お願い」
「先輩っ・・・」
手伝わない理由はなかった。
そもそも皆が使う会議室の準備を、水野一人に押し付けること自体がおかしいんだ。
「大丈夫です先輩!私行ってきますから!私が間違えてしまったので・・・!」
「なんでだよ。二人でやったほうが早いだろ?」
「・・・そんな・・・申し訳なくてっ・・・」
俺を引き留めようとする水野を無視して営業室を出ると、まだ入り口に屯っていた三人組がこちらを見ていた。
水野に嫌みでも言おうとまだここに侍っていたようだが、俺もついてきたことは計算外だったようで、顔を見合せている。
俺は一言文句を言わずにはいられなかった。
「あの。あんなに怒ることないんじゃないですかね?しかも人前で」
目の前の三人か焦った表情に変わる。
「で、でも、桐谷さん。水野さんのせいでたくさんの人が迷惑してしまっているんですよ。ミーティングを始められなくて・・・」
「水野はここへ来てまだ1ヶ月ですよ。目の前の仕事に夢中で頭が回らないことだってあるでしょう。そこはもっとフォローしてもらえませんか。そもそも、自分の雑用を水野にふったわけでしょう?だったら会議の時間になる前に、準備ができているかそちらも確認するべきですよね」
俺の反論を聞いて一番焦っていたのは、隣にいた水野だった。