恋するオフィスの禁止事項 〜エピソード・ゼロ〜
「先輩っ・・・すみません、私が間違えたんだと思いますっ・・・」
水野は、俺の腕の裾にツンと触れながら、真っ赤な顔で涙目になっていた。手は震えている。
「・・・もう行くぞ、水野。さっさと終わらせよう」
「は、はい」
三人を振り切ってエレベーターに乗ると、彼女たちが苦い顔でバラバラと自分たちのオフィスへ戻るのが見えた。
水野は下を向いたままだ。
「・・・水野。ああいうの、いつもなのか?」
「え?」
「いじめられてんの?」
「あっ・・・」
今回は俺の目に入る形だったが、俺の知らないところで他にも色々嫌がらせをされているんじゃないだろうか。
心当たりがあるような表情で、何も答えずにさらに小さくなっていく。
「・・・すみません。心配かけてしまいまして」
「心配してるから正直に言えよ」
「たまに・・・その、皆さん風当たりが厳しいことがありまして・・・」
「・・・そっか」
俺のそばに水野を置くことは、間違っていたんだろうか。
インテリア部門にいれば今頃こんなことにはなっていなかったはずだ。いい上司に出会って、自信をなくすことなく仕事をしていたかもしれない。
こんな顔させなくてすんだのかも・・・
「・・・水野。ごめん」
「えぇ!?な、なんで先輩が謝るんですか!?」
「俺がもっとちゃんと見てやってりゃ良かったんだ。こうなることは、予想できなくもなかったんだから・・・」
「そんな・・・先輩のせいじゃないですっ・・・」
「また辛いことがあったらちゃんと言えよ。こんなんじゃ仕事嫌になっちまうよな」
「なりません!」
食い気味でそう言った水野は、俺の腕をガッシリと掴んでいた。おそらく無意識だと思う。
掴まれた感覚が気になったが、水野のまっすぐな目に釘付けになって動けなくなった。