恋するオフィスの禁止事項 〜エピソード・ゼロ〜



水野といると不思議な気分になる。

彼女の真っ直ぐすぎる言動には驚かされるし、純粋すぎる表情に足がすくむ。
別に突拍子もないことを言っているわけでもないのに。

でも今までこんな風に接してくれる部下はいなかった。こんなに純粋に、上司としての俺を慕ってくれる子なんて。


──今まで部下の指導は、どこかやりきれない気持ちになることが多かった。
こっちはどう育てようか頭を使って日々考えているのに、相手には全然伝わらなかった。

『桐谷さん、終わりました!』

『おう。・・・いや、前も教えたよな?ここはこうじゃなくて・・・』

『すみません。あの、私、一回じゃ覚えられないので、家に帰ってからもご連絡しちゃっていいですか?』

『・・・仕事のことだけなら、まぁ・・』

『ホントですか!ありがとうございます!じゃあさっそく今日ご連絡しますね!』

『・・・。』


教えるという行為は、女性が相手だとまるで手応えがなかった。
教えたことが浸透するのが遅い。こっちは100%で教えてるのに、向こうにはその気がない。

『桐谷さん、彼女いるんですか?』
『どんな人がタイプなんですか?』

そんな質問をする余裕はあるのに、教えたことを覚える余裕はないらしい。
イライラして仕方がなかった。


だから、水野はすごい。


『私、先輩がいてくれるので、仕事が楽しいんです。すごくよく考えて指導してもらってるんだなって感じてます』


教えてて楽しい。

すごいな、水野。いいな。


可愛いな。


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