恋するオフィスの禁止事項 〜エピソード・ゼロ〜
「・・・っ」
あまりにはっきりと、頭のなかで『可愛い』と言ったことに、また俺は動揺を隠せなかった。
水野は会議室のテーブルを動かすことに夢中になっている。
俺は今、『可愛い』と思ってしまったけど、それは・・・。
(それは後輩として可愛い、ってことだよな?)
自分の感情なのに、自分にそう問いかけていた。
目を戻すと、水野は動かしたテーブルにひとつずつ椅子を移動して仕舞い込んでいる。
飽きずにひとつずつ、わりと楽しそうに。
その姿はやっぱり犬みたいだと思えて、そして水野に対して感じた気持ちも『犬みたいで可愛い』ということだと確信した。
「よし、終わったな!偉いぞー水野」
「えっ、もー先輩!頭グシャグシャしないで下さいー!」
犬みたいに頭を撫でてやった。
こうすれば別に、変な意味はない。
俺は水野のことが、後輩として可愛いんだ。