恋するオフィスの禁止事項 〜エピソード・ゼロ〜
「・・今回の異動で動くかと思ってたんですが。今の時点で唐沢さんから話がないってことは、僕は動かないってことですよね」
「はは。動きたかったと言わんばかりだねぇ。そうなんだ君は今回は動かないよ。でもそこは人事部が決めることだからね、仕方ないのさ」
唐沢さんに言い続けていれば希望が通る可能性に賭けていたけれど、どうやらそうでもないらしい。
次回で動いたとしても、また商品開発部の他部門だったとしたら意味がない。この会社は教育熱心なところはいいが、スピード感はあまりない。ひとところで時間をかけて教育されるというのは俺には向いていなかった。要領をつかんだら、すぐ次のステップに進みたい。
「でも何人か、商品開発部に来るよ。君より若い人も何人かいる」
「そうですか。うちの部門には?」
「それが桐谷君のおかげで女性社員は生活雑貨に集中してしまっててね。まだ振り分けを考えてる最中のようだ」
「・・・やる気のある人はいないんですかね」
「まあ全員が全員そんな動機ではないだろうから、部長が面談して見極めるさ。おそらく君には教育係になってもらいたいから異動させなかったんだろう」
この異動に対して一気に嫌気が差してきた。
俺に教育係をやらせる、それは別にいい。係長として後輩の指導に尽力するのも務めだと思っている。
でも異性の社員が相手というのはどうもやりづらい。
女性というのは仕事にプライベートを持ち込むことが多すぎる。特に恋愛について。
相談だと言って妙なことを言ってきたり、仕事中に駆け引きまがいの態度をとってくるたびに、やはり女性社員とは仕事がしづらいと感じてしまう。
今まで一緒に仕事をしたいと思った女性社員はわずかしかいない。特に年下となれば、一人しかいなかった。
─『すみません、本部の方ですか!?私はこの方が絶対に売れると思います!』─
あのときの彼女はまだ店舗にいるだろうか。