恋するオフィスの禁止事項 〜エピソード・ゼロ〜
俺の手帳は留め具が壊れている。
でも壊れているが、実はコツがあって俺なら留めることはできる。
手帳を見終わったら必ず留め具を閉めるようにしていたはずだが、水野から渡された手帳は留め具が外れた状態になっていた。
外した後、コツが分からなくて留められなかったんだろう。
「あ、あ、あ、あの、先輩っ、」
「ははっ、正直に言ってみ?」
「あぁぁぁぁ・・・い、言い訳させて下さいっ!」
「うん」
水野じゃなかったら、おそらく俺はすこぶる機嫌が悪くなっていたはずだ。
手帳は仕事について俺なりの全てが詰まっている。
手帳を見れば俺の仕事のやり方が分かってしまうと言っても過言ではない。
それを好奇心で見られるようなことがあれば、たちまち俺は不機嫌になる。
本部長にこれを拾われたことですら少し気になってるくらいなんだ。
でも水野だと違った。
水野はなんでそんなことをした?
人の手帳を覗き見るなんてことしなさそうなのに。
俺のだから?
───俺のこと、気になる?
そう思うと、怒りなんかじゃなくて、別の感情が湧いてきた。
「先輩の手帳を開けました。信じてもらえないかもしれないですが、中は決して見ていません!」
「えー?なんだそれ」
「思い止まりました!中を見たくて留め具を開けてしまいましたが・・・悪いことをしてるって気持ちに耐えられなくて、結局見ていません」
「ほんとに?」
「本当です!」
真面目だな。水野らしい。