恋するオフィスの禁止事項 〜エピソード・ゼロ〜
3
水野のことを意識し始めても、仕事に特に支障はなかった。
今のところあっちにその気はないことが分かっているから、こっちも何も行動する機会はない。
それにまだ教えなきゃならないことはたくさんあるし、ここで色恋を混ぜたら面倒なことになる。
「桐谷ってさあ、ぶっちゃけ水野ちゃんのことどう思ってんの?」
だから飲み屋で同期の高橋にそう聞かれたとき、俺は分かりやすく動揺してしまった。
「・・・どうって?」
「桐谷がそれだけべた褒めするってことは優秀な後輩だってことは分かるよ。でもさ、桐谷に憧れてて、仕事もできて、見た目も良いじゃん。そんなんお前だって仕事抜きに可愛いって思うだろ?」
「・・・思うよ。スゲー可愛い」
「じゃあ付き合えばよくね?とりあえず飯でも行けばいいじゃん」
「・・・。」
「ああ、桐谷は職場の女の子とは飯とか行かないポリシーだっけか」
飯か・・・・
たしかに俺は、女性社員と仕事以外の用事で外に出ることはなかった。
別にポリシーとかじゃない。
誘われることはあったけど、それは下心があると分かってたから断ってきた。
「仕事のことで相談がある」と言われて誘われたこともあるけれど、女性のそれは大体嘘だ。
後輩と飯に行って親睦を深める、それも重要だとは思うけれど、それ以上の関係を求められても困る。
だいたいそれ以上を求められると分かっている相手だったから、最初から断っているだけだった。