恋するオフィスの禁止事項 〜エピソード・ゼロ〜
「桐谷、最後に彼女いたのいつだよ」
「・・・三年前くらいだな」
「げ。じゃあ俺が無理やり紹介した子と付き合ったってのが最後なわけ?」
「そういえばそうだったな。仕事忙しくてフラれたけど」
「ばーか。桐谷がちゃんとフォローしなかったからだろ。ちゃんと好きなのが伝わってれば、女の子からフッたりしねーよ。桐谷に好かれてる自信がないって言ってたぞ。だからさ、お前が入れ込むなんて水野ちゃんは相当レアなんだから、早く彼女にして、他の可哀想な女の子たちを諦めさせてやれよ」
───水野と付き合う、か。
もし俺が付き合おうって言ったら、水野はなんて言うかな。
とりあえず真っ赤になるよな。
考えさせてくれって言うかな。
一応俺は先輩だから、こっぴどくフラれることはないだろうな。
1日考えて、フるにしたって「ごめんなさい、今は仕事のことしか考えられません」とかなんとか言うんだろうな。
「だってお前、異動願出すんだろ?別にフラれたって失うものは何もないじゃん。まあフラれないと思うけど」
・・・・あ、
「そうだった」
「異動願が受理されれば、10月に異動だろ?もうあとそんなに一緒にいられないんだから、急いだほうがいいんじゃないか?」
俺は来月頭にでも異動願を出す予定でいたことを思い出した。
そのことを確かに高橋にも話していた。
俺の予想では、八割方くらいで希望は通ると思う。唐沢本部長なら俺の希望を無下にはしないだろう。
あんなにマーケティング戦略部に行きたかったんだから、異動願を出すなら今だ。
でも今は、少し迷っている。
異動したら水野とは一緒に仕事ができなくなる。せっかく気の合う後輩に出会って、育成係を務めるなんて機会ができたのに、それを手放すのは惜しい。彼女を育ててあげたい。
それに何より、水野と離れたくない。
もっと一緒にいれば、今は先輩としてしか接することのできない水野とも、もっと打ち解けることができるかもしれないのに。
そしたら、この気持ちも───