恋するオフィスの禁止事項 〜エピソード・ゼロ〜
女性で俺にそういう態度を取ってくる部下は今までいなかったが、水野旭は分からない。
俺はそう考え始めてから、彼女が俺と初めて対面してどういう挨拶をするのか全く予想できなくなった。
開いたエレベーターの扉から、彼女はすぐに姿を現した。
「あっ・・・」
1つに揺っている髪にスーツ姿、それは昔見た彼女より大人びていた。あのときは確か短めの髪はおろしていて、現場の制服を着ていたはずだ。
俺と課長を見て声をもらしたのは向こうだった。
「水野さんね。初めまして。生活雑貨部門・課長の市川です」
「係長の桐谷です」
「はい!今日からお世話になります、水野旭です!よっ、よろしくお願いします!」
・・・子犬みたいだな。
90度より深く下げられた頭にこちらが後退りしてしまうほど、勢いがある。
そうか、彼女はこんな感じだった。熱血系だ。
「今日は軽く部門の社員の紹介と仕事の案内をするだけよ。教育係は桐谷君だから、彼によく教わってね」
課長はそこで俺に一任すると言わんばかりに肩に手を置いて、ポンポンと叩いた。
そのつもりだったから問題ない。
「はい!桐谷係長!ご指導よろしくお願いします!」
「・・・係長ってつけなくて良いよ。言いづらくない?」
「えっ、あっ・・・そうですね、じゃああの、桐谷先輩!」
(・・・『先輩』って、社会人になってからあまり言わないよな)