恋するオフィスの禁止事項 〜エピソード・ゼロ〜
この子は少しずれてるかもしれないと思った。
でも何も不快に思う要素はない。真面目で熱意のある姿勢は好感が持てた。
「じゃあ桐谷君。私は朝のミーティングをしてくるから、ここで水野さんと話をしてて。10分後に皆の前で挨拶してもらうから、それまでよろしくね。流れを教えてあげて」
「はい」
課長は俺たち二人を置いて応接室を出ていった。課長が出ていったことで、水野の表情はさらに強ばった。
「緊張してる?」
「は、はいっ・・・本社に入るのは入社式以来です。どうしてここに配属になったのか今でも全然分からないですし、商品開発なんて重大な仕事が私に務まるかどうか不安です・・・」
「大丈夫だよ。ちゃんと教えるから。水野ならできるよ」
水野はポカンとしていた。
ついでに俺は頭の中では今までずっとこの子のことを呼び捨てにしてきたからか、今も自然と「水野」と呼んでいた。でもそれは初対面だと思っている彼女にはキツい態度だったかもしれない。怖い先輩だと思われたかも。
「私にはできる、というのは・・・どこらへんでそう思うんでしょうか?」
「っ、」
まずい。そうだよな、面識がないのに俺に何が分かるんだ、って話になる。
「ほら、表彰されたことだって聞いてるしさ。今は興味持てないかもしれないけど、商品開発もなかなか面白いよ」
「いいえ!興味はすごくあります!」