恋するオフィスの禁止事項 〜エピソード・ゼロ〜
彼女の目はやたらとキラキラしていた。
ぐいっと乗り出し気味で、テーブルを挟んで対面している俺に顔を近づけてきた。
思わず体が強ばった。
「私、ずっと店舗で、色んなことがありました。お客さんの喜びに直に触れることができるのは、店舗の特権でした。・・・でもそれ以上に、知らないこともたくさんあるって気付かされたんです。うちの商品の素晴らしさを誉められても、誰がどんなに頭を使って、どんな気持ちで、どんな風に使ってほしくて作ったものなのか。それがずっと知りたいと思ってました!そしたらお客さんに正しく伝えられますもんね!」
「・・・。」
「そう思ってたんですが・・・いざ配属になってみるとやっぱり不安です。迷惑ばかりかけてしまうと思いますが、どうかよろしくお願いします」
コロコロと変わる表情にしばらく釘付けになった。
彼女はやっぱり変わってない。あの日見つけた彼女のままだ。
こんなに純粋な気持ちで本部に来る人はどれくらいいるだろう。
彼女の手助けがしたい。こんなに頑張ると言ってるんだ。俺がきちんと指導して、一人前にしてやりたい。
「おう、任せとけ。言っとくけど俺は厳しいよ?不安になってる暇なんてないくらいビシバシいくからな」
「は、はい先輩・・・!」
「分かったらあと二分で挨拶考えとけよ。今から皆の前で紹介するから、最後に一言もらう」
「了解です!」
水野は礼儀正しいといえばそうだが、使う敬語は完璧ではないし、スマートでもなかった。
採用時の枠を越えた異例の出世コースのはずだが、エリートな雰囲気も纏ってはいない。
でも言葉が心に響く。
誰にも負けない熱意がある。