【完】『雪の都』
桜子が急ぐと、エントランスには真っ赤なジャケットを着た薫が帰り支度をしている。
「…ごめんなさい」
桜子は目に涙をためていた。
「別に気にしてへんよ」
「…えっ?」
「ただ、ああいうのは苦手で…二人で話したくてやなぁ」
「薫さん…」
「今度からキスは気をつけや」
桜子の頭を薫はポンポンと軽くたたく。
「それよかえらい女の戦いやったな」
ああして妻と愛人って戦うんだな、というようなことを言って薫は笑うと、
「うちは浮気せんから安心せぇ」
されたことはあるけど、と苦笑いを浮かべて廊下へ出た。