【完】『雪の都』
居酒屋を出ると月が見えた。
「あの修羅場、多分彩ちゃんの勝ちやで」
薫は言った。
「なんやかんや言うても、妻って立場は強いからなぁ」
「…そうじゃなくて!」
桜子は少し怒りぎみに言う。
「なんで…なんで、責めたりしないの?」
「えっ?」
「普通の彼氏なら怒るよ、どんな理由でも元カレに会ったってだけで」
「せやろな」
「…どうして?」
「まぁうちが普通の彼氏やなくて、異常な彼氏やからとちゃうか?」
薫は笑いを取りにかかった。
「異常な、彼氏…?」
「せや。異常や。これなぁ、多分うちだけかなと思うんやけど、桜子を大事にしたいと思えば思うほど、うちは自分を否定してまう面がある」
せやから異常や、と薫は言う。
「うちには不安がある」
薫は続けた。