【完】『雪の都』

桜子は耳を立てた。

「気持ちっていつか冷めるやろ? いつか桜子の気持ちも冷める日が来るんかなって」

「薫さん…」

「そんで仮に、桜子に別に好きな人が出来たときに、うちがジタバタしたらみっともないし、桜子が嫌がるやろ?」

「えっ…」

「そういうときに、何があっても慌てんとこって決めてるから、元カレにキスされたぐらいでは騒がんようにって自分で自分に決めてある」

だから怒らんし、と薫は言い終えた。

はじめは桜子はよく分からなかったが、聞いていてもしかしたら薫は、桜子を心から大切に慕っていて、だから桜子を傷つけまいとして、結果的に薫自身を傷つけているかも知れない…と感じたらしい。

桜子には、薫を背中から抱き締めるぐらいしか出来なかった。



< 144 / 192 >

この作品をシェア

pagetop