【完】『雪の都』
薫はすっかり悄気かえってしまい、
「何も桜子の誕生日にこんなんならんかったかて」
と病院の待合室の椅子で俯いていたが、
「薫さん」
桜子は意外と冷静に、
「これってもしかして、お母さんは私に薫さんを託したのかなって」
とだけ、小さく呟いた。
「託す?」
「うん」
「だってそうじゃなきゃ、こんなこと起きないじゃない」
確かに恋人の誕生日がオカンの命日、というのは聞いたためしがない。
しかし、である。
「前に話したとき、あんな息子で手間がかかるけど、しっかり頼むわねって」
だから肩の荷がおりたのかなって、と桜子は言った。
「そうなんかなぁ」
「きっとそうだと私は思うよ」
桜子は薫に寄り添う。
「…これからが大変やなー、葬式だの何だの」
薫は深く息を吐いてから、自販機で買ったコーヒーを飲んで、ちょっとずつ心の整頓をしているようであった。