【完】『雪の都』
その他方で。
当の深雪は上司の支店長である信藤から、相変わらず執拗なアプローチを受けていた。
「いいじゃないか長野くん、減るもんじゃないんだし」
とは言うが、明らかに金は減る。
「じゃあ支店長、関係を持ったら給料が上がるとか、何か私が得をするようなことがあるんですか?」
深雪には意外と利かん気の強いところがあるらしい。
これには信藤も閉口してアプローチをしなくなったが、それからほどなく信藤には、
「東京本社付勤務」
という辞令が出て、札幌を離れた。
のちにこの話を桜子が聞くと、
「ちょっと薬が効きすぎたかな」
とだけ言った。
どうやら桜子は何か薬を投与したらしいが、それは遂に誰にも分からずじまいで、
「やるときゃやるなぁ」
としか薫には言葉がなかった。