【完】『雪の都』
桜子には薫の心の動きは皆目わからないままであったが、
「薫さん…大丈夫?」
と訊いた。
何かしらの不安定な感情の動きだけは察知したからであろう。
桜子はふと、
「ね、コーヒーでも飲もうか」
そう言うと大丸の上の階にあったイノダコーヒに寄った。
窓際の椅子が空いていたので並んで座ると、
「ここね、よく来てたんだ」
二人は紅茶を頼んだ。
街がだんだん暮れて行く。
灯点し頃の交差点を、ミニカーのように自動車が小さく動き回る。
なにも言わなかったが、薫も桜子も、窓から見える景色を見ながら、薫も桜子も黙々と紅茶を飲み、夜景を眺めていた。