【完】『雪の都』
札幌に根雪の積もり始めた頃、桜子は産院に入った。
予定日が十五日であったからに過ぎないが、一週間ほどは陣痛もなく、なんの兆候もなく過ごした。
「普通なら気になって食べられなかったりするんです」
という看護師の言葉と裏腹に、桜子はとにかく安定期からやたらと刺し身を食べていた。
「多分、薫さんに似たかも」
薫が魚好きで、特に鰹や鯛の刺し身を好んで食べたのを桜子はおぼえていたからである。