【完】『雪の都』
「思ったより安産でした」
という医師の声とともに入ると、力なく横たわって酸素マスクをつけている桜子の隣に、まだ産まれたばかりの女の子が、おくるみにくるまれて泣いていた。
「薫みたいにくっきりした顔だね」
澪が言う。
「桜子、頑張ったんだね」
気づくと深雪は涙を流している。
「なんか感動しちゃって…」
「あんたが産んだんじゃないんだから」
澪に突っ込まれると、産室に笑いが起きた。
廊下へ出ると街は朝で、夜中に降っていた雪は止んで、積もったばかりの新雪で、青空ともども眩しい。
数日後に薫子と名付けられるこの嬰児がどうなるかは誰にも分からないが、深雪はふと、ガラス越しに目に飛び込んだ、キッズスペースの本棚のシンデレラという真っ赤な活字に、
「…プリンセス、かぁ」
とだけ小さく呟くと、これはこれで、良かったのかも知れないと深雪は感じた。
【完】