【完】『雪の都』
桜子が圭くんというそのスーツ姿の男は、
「…新しい彼氏?」
薫を見た。
薫は様子を見極めようとしていたのか、男を一瞥しただけで、何も動かない。
「…もう圭くんとは関係ないじゃん」
「彼じゃないならいいじゃん」
そのとき。
「…おい」
そこで初めて薫が、桜子が聞いたことのないような低い声で口を開いた。
「…ワイのスケに、何ぞ用か」
明らかにドスのきいた関西弁である。
「…いえ」
「さよか、ほんならえぇわ」
男は前方に立ち、やがて市役所前のバス停で降りた。