【完】『雪の都』

桜子は何気なくきいた。

「薫さんって長いこと関西にいたんだっけ?」

「せや。いちばん長くいたのは京都」

そのあとは引っ越しばかりで、姫路にいたり弁天町にいたりもしたらしい。

「せやから、どこの街でも生きてはゆけるんやけど、地元とかそういう愛着みたいのはなくて」

だから居場所がない、と薫はタンブラーのサイダーに口をつけた。

「実家は小樽やしオカンも小樽やけど、うちだけすっかり関西弁やし、まるで地元が関西と入れ替わったような感覚やもん」

薫の一抹の翳りのある眼はそういうところに起因しているらしかった。



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