【完】『雪の都』
桜子を起こさないように物音を立てないでベッドを抜け出した薫は、手早く脱ぎ散らかした服に袖を通した。
「…薫?」
桜子が起きたらしい。
まだ少しだけ寝ぼけている。
「ごめん、起こした?」
「うぅん」
「仕事ゆくの?」
「まぁな」
「…あのね、これだけは薫に信じてほしいんだけど」
起きた桜子はシーツをまとった。
「私の気持ちだけは信じてほしいんだ」
桜子は真っ直ぐな眼差しで薫を見つめる。
少しとろんとした、それでいて邪気のまざっていない目で見られると、薫も弱い。