甘えたで、不器用でも
「お姉さん、ひとりですか?」
「え、私ですか?」
と、突然右隣から聞き覚えのない声音が私に話かけてくる。ちらりと目を向ければ長身の20代前半くらいの男性で。
「待ち合わせしてるので」
「でもずっとここにいますよね?」
「ちょっと遅れてるみたいで」
「えー、クリスマスの夜に女の子待たせる男はダメでしょ」
面倒くさいなと思いながら、さらりと素っ気なく答えればペラペラと言葉を溢していくその人。クリスマスに待ち合わせ中の女性に声をかける男の方がいかがなものかと思うよ私は。
「お姉さん、待ち合わせに遅れてくる男なんて放っておいて俺と遊びに行こうよ!」
「結構です」
「え、お姉さん気強い系?俺好きだよそういうクールビューティー女子」
なんなんだこの男は。しつこい。しつこ過ぎる。私は嫌いだクリスマスにナンパをしてくるしつこい男は。
中々諦めてくれないしつこいナンパ男に困っていればレストラン脇に止まった1台のタクシー。
すっと開いた扉からは見慣れたグレーのコートを着た男性が降りてきて、こちらに向かって歩いてくる。