甘えたで、不器用でも
私は手にしていたスマホを確認した。23時36分。思わず「早い」と、独白を溢せばしつこいナンパ男は「なにが?なにが?」と興味津々で問いかけてくる。
私はその男に、にこりと笑みをお見舞いした。
「え、なになに?お姉さん、俺と遊びに行く気になったの?」
嬉しそうなその言葉と共にこちらに腕を伸ばしてきて肩を抱かれる。かわそうとしたけれどなんとも強引に引かれ未遂に終わってしまった。この人、絶対にやばい奴だ。
と、じろりと眉根を寄せて男を睨みつければ「お姉さん、怒った顔も可愛いね」なんて、呑気な返答をされ私のイライラは募っていくばかり。
「お兄さん」
と、聞き慣れた男性にしては少し高めの声音が後ろから聞こえてきた。ほっと胸を撫で下ろし早くなんとかしてくれと迫る時間にじっと彼に訴えかける。
私の肩に回るナンパ男の手首を掴むと捻り上げる、グレーのコートを着た男。
「痛い。おじさんなにするんだよ!」
「いや、お兄さんがこの女性にセクハラ行為をしていたので」
「はぁ?おじさんには関係ないだろ!俺と、このお姉さんは今から遊びに行くんだよ、邪魔するなよ」
「てか、僕まだ32歳なんだけど」
「は?なに言ってるんだよ」
にっこりと、不敵な笑みを浮かべながらセクハラ男に詰め寄るグレーの背中を見つめ私は再度スマホの画面を見た。23時40分。
早くしてほしい。時間がないのだから。