甘えたで、不器用でも
「帰ったんじゃなかったの……?」
「うん、我儘不貞腐れお姫様にムカついて帰ろうとした」
「……」
「でも、」
ベッド脇に腰を下ろして下から見つめる彼は、でもと言ってベッドの上に小さな箱を置く。見覚えのあるそれは彼に渡そうと思っていたバレンタインチョコレート。
あれ、たしかこれは鞄の中に入れていたはずなのに、とチョコレートの箱をじっと見つめる。
そんな私が面白いのか、くすくすと目の前の彼は小さく笑った。
チョコレートの箱に向けていた視線を彼へと移す。するりと交わった視線がなんだか妙に恥ずかしい。先ほどまでの笑みが消えた彼の瞳。
「これ、俺の?」
チョコレートの箱をとんとんと人差し指で軽く叩きながら、私から視線を逸らさない彼。私は少しの間のあと、こくりと頷いた。
ふと、そういえば。と思い出した。どうやら玄関に置きっぱなしで、開けっ放しにしていた鞄から彼はこれを見つけてきたのだろうと。
じっと向けられた視線は、なかなか私から逸らされることはなくて、けれど無言で送られるそれに、張り詰めた空気がなんだか重たい。