甘えたで、不器用でも



「この人は僕の彼女じゃない」

「は?じゃあ、他人なのかよ!なんだよ俺の邪魔しやがっ」



ナンパ男が言い終わる前に勢いよく胸ぐらを掴むグレーのコートを纏った男。


キラリと彼の左の薬指で光るシルバーが見えた。彼は左利きだ。



「この人は、僕の奥さん」

「え、」




「だから、勝手に俺の奥さんナンパしてんじゃねえよ」



彼は機嫌が悪くなると一人称が僕から俺に変わる。口調も悪くなる。見た目はスマートな大人の男に見えるけれど、なにかと心配性でヤキモチ妬きだ。


要するに、大人気ない、大人だ。



「て、ことで君とは遊びに行けないから他あたって」



このままでは長くなりそうなのでナンパ男にそう吐き捨て、私はグレーのコートを着た彼の腕を引っ張った。23時48分。



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