甘えたで、不器用でも



「もう嫌だ、嫌い」



ふいっと顔を逸らし彼の服の袖口をぎゅっと握った。私を不安にさせた罰。その程度でちょっとふざけて言っただけだったけれど、


するりと絡め取られた指先に引かれて私はもう一度、彼の体に抱きつく形となる。



「……そんなこと、言わないで」



耳元に囁くように落とされた弱々しい言葉。
ぎゅっと。力強く抱きしめられた体は身動きを封じられた。



「ねぇ、好きだよ」



彼にそう言われ悪いことをしてしまった。そう思った。本当に狡い。冗談ぽく返してくれたらいいのに。「俺も嫌いだし」とか言ってふざけてくれたらいいのに。


そんな悲しそうに言われたら、降参するしかないじゃないか。



「ごめん、ちょっと意地悪……しました」

「うん、俺のほうこそごめんね」

「私も、好きだよ」

「じゃ、仲直りだ」

「うん」

「じゃ、仲直りの印にそのチョコレート一緒に食べませんか?」



抱きしめられた体を少し離し、ベッドの上に置いていたチョコレートの箱を彼がするりと指さす。



「今日は、せっかくのバレンタインだから」


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