甘えたで、不器用でも
ショーケースと睨めっこを続ける彼を置き去りにし、ぐるりと店内を見渡しながら奥へと移動した。
色とりどりの綺麗なお菓子に、甘い香りの充満するいかにも女子が好きそうな空間。確かに男性ひとりでは入りにくいな、と思う。
可愛らしい店内に置かれた、可愛らしいお菓子達。
「これ、可愛い」
ふと、小さな飴が並ぶブースで足を止めた。置かれていたのは誕生石をモチーフにした12種類の飴。
本物の宝石のようにキラキラ光るそれはあまりにも美しくて、思わず声を漏らしていた。
100円玉ほどの大きさの飴が、まるで指輪のように小さなケースに収められている。
その下に貼られていた高級感漂うネイビーの紙には値段と誕生月が書かれていた。
相手の誕生日を調べて、こういうお返しをさらりとできる男の人はモテるんだろうなとふと思った。
ぐるりと店内を一周し、ショーケースを見つめていた彼の元へ戻ればお会計をしている様子。
「無事に買えましたか?」
「ああ、付き合ってくれてありがとう。会計もう終わるから店の外で待ってて」
「はい」
彼のその言葉に自動ドアを開き外へと出る。充満していた甘い香りから、爽やかな夜の空気に出迎えられた。
店の前にあるオシャレなふたりがけの白い椅子に座り彼が出てくるのを待った。外観まで可愛らしいなんて、なんとも狡い店である。
と、暫くして開いた自動ドア。「ごめん待たせて」という言葉と共に現れた彼の両手には淡いブルーの大きな紙袋。
いったい、いくつ買ったのか。というよりこの人はいったいいくつチョコレートを貰ったのだろう。
すっと立ち上がり「買い過ぎでは?」と言葉を飛ばせば「でも貰った分だけ買ったんだよ。お返しはみんなにしないと」とまるで嫌味のような言葉が返ってくる。彼はきっとそれが嫌味だということに気がついてはいないのだろうけど。