甘えたで、不器用でも



「……あの、用がないなら私、帰りますよ」

「え、いやそうじゃなくて」

「え、用がないのに呼び止めてごめんの、ごめんですよね?」

「だから、そうじゃなくて」



慌てた様子で「違う」を連呼する彼。ならばどういうことだというのか。さっぱり意味が分からない。


新手の、嫌がらせの類なんじゃないかとじろりと視線を注ぐ。



「ごめん、て言うのはさっき言った言葉。あれ嘘だから」

「えーと、どれですか?」

「貰った分のお返しだけ買ったって、ところ」

「と、言いますと?」



ん?と思わず眉根を寄せてしまう。要するにこの人はなにを言いたいんだ……?


自分の発した言葉が、違う捉え方になることに気がついたのだろうか。こんなに買うの大変、でも貰ったからしょうがないし的な。解釈の違い。


私は同性ではないので別にそこまで気に留めませんよ、とりあえずそれより何より帰りたいのですが、と心底思っていることは言えず。


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