甘えたで、不器用でも
「いや、別に本当に嫌味だなんて思ってないので大丈夫ですよ」
一応、自分自身の発言を気にしているであろう彼を励まそうという気持ちでその言葉を選んだ。
けれど、
「え?なにが?」
「え?」
ん?と意味が分からない。というような表情。あれ、どうやら違ったらしい。じゃあ、もう私には分からない。理解不能だ。
「え、無自覚に自慢してしまったことを悔いているのではないのですか?」
「え、どういうこと?」
お前はなにを言っているんだと言わんばかりに、まるでこの子頭大丈夫?みたいな冷ややかな瞳をして彼は小首を傾げる。
なんて最低な上司だろうか。
もう絶対、頼みごとなど聞くものか。
「すみません、私、失礼させていただきます」
「だから、待てって」
するりと、彼を置いて地下に続く階段のある方へ足を進める。無駄な動きなど一切せずに。華麗に立ち去ろうとした。が、呆気なく本当に呆気なく私の指先は彼の指先に捕らえられた。
なぜ?私よりも少し体温の高い、熱っぽい指先がぎゅっと絡まる。
不覚にもどきりとして、思わず足を止めた。
この人は部下になにをしているんだ。
ああ、こういうことがスマートにできるから女受けがいいのか。なんて、自分の置かれているこの状況があまりにも理解不能すぎて、逆に冷静に頭が働く。
絡まった指先は解ける気配を感じない。