甘えたで、不器用でも
「なんですか?」
「だから、俺が今日買いに来たのはバレンタインのお返しじゃないんだって」
「え、」
「あ、いや、お返しも買ったんだけど」
「もう、意味が分かりません」
「いや、俺もだいぶテンパってるからちょっと待って。いますぐ落ち着くから」
背中越しに聞こえる少し早口な彼の声。なんで彼がテンパる必要があるのか。早くこの手を離してほしい。
離して、という気持ちを込めゆっくりと振り返ればそこには顔を真っ赤にした上司。
あれ、女の子の手を握るなんてきっと、絶対慣れているだろうに。
「どうして、そんなに真っ赤なのですか?」
覗き込むように顔を見れば私の手と繋がっていない方の手で恥ずかしそうに「見るなと」と私の視界を遮った。
本当に意味が分からないよ。
「いや、あの、その」と歯切れの悪い言葉を並べられ、どうしていいのか分からず。
視界を遮られたままただただ立ち尽くしていれば、するりと遮られていた視界が明るくなる。
と、先ほど椅子に置いた紙袋目掛けてすたすたと歩いていく彼。あれ、また放置プレイ……?
大きな紙袋の中から目当てのものを見つけた彼はすぐに戻ってきた。すると無愛想に視線を絡ませることはなく「はい」と小さな淡いブルーのラッピングの施してある箱を私に向けて渡してくる。