甘えたで、不器用でも



「なんですか?」

「いいから」



なんだか感じ悪くないですか?
ちょうど帰宅ラッシュで私達の横を過ぎていくたくさんの人々。


私はこんなところでなにをしているんだろうか。


目の前の突然無愛想になった人から小さな箱を受け取れば「開けて」と催促をされた。


綺麗に巻かれたリボンを解き、包装紙を剥いでいく。
姿を現したのは先ほどの甘い香りのする店で見た小さな箱。





「本当はこれを買いにきたんだ」



顔を真っ赤にしながら落とされた言葉。私はその小さな箱の蓋を開けた。中には淡く透き通る、まるで海の色のような綺麗な飴が収められていた。


先ほど目にした、誕生石の飴細工。


どうしてだろう。私は彼にバレンタインのチョコレートを渡してなどいないのに。


じっと顔を見つめた。すると、さらに赤く染まっていく。既に耳まで真っ赤っかだ。



「これ私にくれるのですか?」

「でなきゃ、わざわざ引きとめない」

「今日、買い物に付き合ったお礼ってことですかね?」



私が問えば「はぁー」っと目の前で盛大にため息を吐き出す彼。なんだ本当に失礼極まりないな。と思っていればするりと再度絡められた指先。


先ほどよりも熱っぽいそれに、本当にこの人は体温の高い人だな、なんて思った。


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