甘えたで、不器用でも
「こども」と言われていちいち反応してしまう私は本当にこどもだと自分でも自覚している。自覚しているからこそ不安でたまらない。
いつかこの人が綺麗な大人の女性に取られてしまうんじゃないかと。
社会人の彼は一緒にいてもどこか違う世界の住人のようで、私はいつも迷子にならないよう彼の姿を追うことに必死で、けれど彼はするりと私をかわしていく。そんな気がして。
それがたまらなく不安で、寂しい。
カタリッと目の前にある四角いガラステーブルにマグカップを置き、彼の座るソファから一段降りたラグマットの上に私はちょこんと座り直した。
「どうした?」と言いたげな彼の視線が私を見つめるのでその瞳を下から見つめ返す。
「なに、こどもって言われて拗ねてるの?」
すれば心地いい彼の声が優しく私の耳に届いた。
カタリッと彼もマグカップを置くとまるであやすようにぽんっと、綺麗な手が頭の上に届く。
あ、また、こども扱い……。
「そんなんじゃない、です……」
拗ねてない。本当は拗ねてるくせに。正直になれない私はどこまでも可愛くなくて、どこまでもこどもだ。
頭に乗せられた彼の手をそっと下ろす。
今の自分は最高に嫌な女の子。呆れられてしまう前に頭を冷やそうと自分の分のマグカップを手にしキッチンに向かおうと立ち上がったところでソファに座る彼に虚しくも私の右手は捕らえられた。
「逃げないでよ」
飲みかけのコーヒーがマグカップの中で、揺らめく。
私の左手からするりとそれを奪った彼はガラステーブルの上に静かに戻した。
そしてぐっと右手を引き寄せられ、彼の膝の上に体制を崩した私はまるで蜘蛛の巣に絡まるようにそのまま捕らえられた。
「拗ねてんの?」
「だから、そんなんじゃないです……」
「嘘つき」
綺麗な顔を至近距離で歪ませて、でもその顔も素敵だ。なんて思う私は少々異常なのかもしれない。