甘えたで、不器用でも



じっと彼の瞳を見つめる。それに応えるみたいに彼の視線が私の視線と交わった。





「だから、今日はエイプリルフールなんだよ」




私はゆっくりと言った。彼はまたしばらくフリーズをして先ほどと同じハッとした顔をする。



「え、じゃあ、」

「……」

「もしかして、別れようって」

「……」

「……嘘?」



無駄にキラキラと注がれる視線。自分で言い出したくせに、自分が先に騙そうとしたくせに、だから騙されているかもなんて彼は思いもしなかったらしい。



「うん、だって、」

「……」



「今日は、エイプリルフール、なんでしょ」



にっこりと私が言えば目の前の彼は「よかった」と先ほどまで強張っていた顔を緩めて笑った。



「嘘でも、別れようなんて言わないでよ」

「いや、嫌いって言い出した自分が悪いでしょ」

「……すみません」

「分かればよろしい」



「早くナポリタン食べなよ」と彼の目の前で動きを止めていたナポリタンを指さす。すると「待っててよ」と女子のようなその言葉を零しナポリタンを頬張った。



必死なその姿に騙してごめんね。なんて音にはせずに思うけれど、半分は騙される方も悪いんだぞ。という視線を彼に送ってみたりする。



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