甘えたで、不器用でも
「ねぇ、まだ?」
「まだ、です……」
「はやく」
洗い終わった食器を拭く私の後ろから腕を回し抱きついてくる彼は終始耳元で「まだ?」という言葉を連呼する。
そんなに言うなら手伝ってくれればいいのに。と心の中だけで悪態をついてみて、音にはできずに飲み込んだ。
ぎゅっと彼の匂いに包まれ背中には熱がこもる。この人は私をどろどろに溶かすつもりなんじゃないかな。というくらいに熱くて。
でも離れてほしいけれど、離れてほしくない。離れてと強く言えない私は、どうしようもないくらい彼に甘くて嫌になる。
好き、って気持ちは時に厄介だ。自分が自分でないような気分になってしまうから。
「ねぇ、まだ?」
「……まだ、もう少しです」
にしても、彼はなにをそんなに急いでいるんだろうか。たしかにいつも「まだ?まだ?」と聞いてはくるがこんなにしつこく責めてくるなんて。
「ねぇ……どうして今日はそんなに急かすの?」
背中にくっつく彼に恐る恐る問いかける。